「ん」はn?

訓令式ローマ字では、「ん」は「n」ですね。
パソコンで入力する際、「nn」と入力すると「ん」と変換されます。
ところで、「ん」の音は、/n/ でしょうか?
実は、ヘボン式ローマ字では「m」と記述することがあります。
「p」「m」「b」の前です。なぜ「m」になるのか、実験をしてみましょう。

Praatで逆再生をしてみようの要領で、まずは「えん」と録音して、逆再生してみましょう。「えん」は /en/ ですから、逆再生すると /ne/ になるはずです。
実際、「ね」(/ne/)と聞こえます(「んねっ」のようにも聞こえますが・・・)。
ですから、「ん」は /n/ で間違いなさそうです。

次に、「あんぱんまん」と録音して逆再生してみましょう。
「あんぱんまん」には「ん」が3つあります。/anpanman/ だとすると、逆は /namnapna/ (/なむなぷな/) になりそうね。
ですが、逆再生してみると、/mammapma/ (まんまぷま)になります。/n/ が全て /m/ になっています。

「あんぱんまん」の「ぱ」「ま」は、「p」「m」なので、ヘボン式ローマ字のルール通り、その前の「ん」は “m” と表記します。ですので、「あんぱんまん」は、 “ampamman” となります(ちなみに、「ヘボン式変換君」のサイトからヘボン式表記を確認することができます)。

ヘボン式表記を逆再生すると、/nammapma/ (なんまぷま)になりそうです。しかし、実際に逆再生してみると /mammapma/ (まんまぷま) になっていました。
確かに、「ぱ」「ま」の前は /m/ の音になっていることが、逆再生から確認できます。では、「まん」の反対が /nam/ ではなく、 /mam/ になっているのはなぜでしょうか。

理由は2つありそうです。
「まん」は、両唇鼻音 /m/ から音が始まるので、唇が閉じた状態から音がスタートします。次に来る「ん」では再度唇が閉じるのが楽なので、自然なようです。
また、「あんぱんまん」は「ん」が1文字おきに3連続します。「ん」「ん」「ん」のリズムなので、「m」「m」とくると、3つめは「n」ではなく、1つめ2つめにつられて「m」になってしまいます。
ですので、 /man/ ではなく、 /mam/ となるようです。

日本語の「ん」は、他にも /ŋ/ (eng)の音等もあります。 /ŋ/ は、英語では “sing” の語末音です。 /ŋ/ は軟口蓋鼻音ですので、軟口蓋音閉鎖音 /k/ /g/ の前に現れます。例えば、「参加」(/saŋka/)「版画」(/haŋga/) 等です。