英語の授業を英語だけで行う、オールイングリッシュの意義は何でしょうか。
高校では、「授業は英語で行うことを基本とすること」が学習指導要領 (MEXT, 2009) に明記され、平成21年3月に告示、平成25年より年次進行で実施されました。小学校、中学校は新学習指導要領が全面実施されますので、全学年一斉に変わりますが、高校は年次(学年)進行ですので、1年生のみ実施され、2年生、3年生は旧学習指導要領のままになります。
平成30年3月に告示された高校の新学習指導要領 (MEXT, 2018) でも「授業は英語で行うことを基本とすること」が明記されています。
平成29年3月に告示された中学校の新学習指導要領 (MEXT, 2017) にも、「授業は英語で行うことを基本とすること」が新たに記載されました。中学校の授業も、令和3年度からは基本的に英語で行うことになります。中学校は全学年一斉に実施されます。
なぜ授業を英語で行うことを基本とするのかは、「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため」とされています。
「授業は英語で行うことを基本とすること」に対する賛否は両論です。岩井先生の論文(岩井, 2019)を拝読し、高校でのTEE (Teaching English in English) の現実を実感し、学習指導要領の方針についてクリティカルに考える機会となりました。
私は、英語で指示を出したり、褒め言葉をかけたりする All in English の授業に賛成です。小学校でも基本的に All in English の授業を行っています。勿論、込み入った指示や、英語で伝えられない情報があるときは日本語を使います。賛成である最も大きな理由は、より充実した授業に繋げられるからです。
向山先生は「授業の原則十ヵ条」の第三条に「簡明の原則」を挙げられ、指示や説明を短くすることの大切さを具体的に記述しています(向山, 1985)。指示や説明を短くすることの重要性は、日々の授業で実感しています。不要な言葉を削ることを意識し、実践した上でクラスルームイングリッシュを用いると、指示は短く、分かりやすくなります。
英語で指示を出すのに、英語母語話者のように流暢な英語が必要な訳ではありません。むしろ、ALTが普段通りの英語で、英語だけで指示をすると「分からない」と児童はパニックになってしまいます。とにかく英語で指示を出せば良いのなら、英語母語話者が英語教師になればよいということになってしまいます。日本人英語教師でも、思いつくまま英訳し、指示をすると「先生、何言っているか分からない」と児童に思われます。そして、指示を聞かなくなってしまいます。言葉を受け入れない状態です。
英語教師に必要なのは、児童が分かる英語を適切に用いる技量です。それには、日本語でも英語でも、不要な言葉を削り、分かりやすい言葉を選択して、組み合わせる努力が必要です。
英語教室には3年生〜6年生の児童が来室しますが、「楽しく学ぼう!」と高いテンションで来る児童がとても多いです。うれしい限りですが、高いテンションの児童に的確に指示を出すためには、言葉を極力削る工夫が必要になります。言葉を削っても教師の意図が伝わるようになると、オールイングリッシュでも授業が成立します。しかもテンポが上がり、児童の活動が増えます。
説明をする際は、児童と手本を示すことで、伝えられることが多いです。デジタルコンテンツを用いて視覚から理解させる場合、言葉が必要ないこともあります。実際に授業をしていると、 “repeat after me.” はいりませんし、 “please look at the blackboard.” 等も使いません。なくても授業が成立する言葉は、極力削ります。
「簡明の原則」を取り入れた上でのTEEなら、児童に「英語を触れる機会」を増やすことができますし、「授業を実際のコミュニケーションの場面」にすることもできます。そして、「英語だけで授業が理解できた!」と児童に自信を持たせることに繋がると思っています。
ただ、言葉を削る、分かりやすい、シンプルな指示を出すにも、教師の学習は必要です。英語として適切な表現だったか、授業後に振り返ること (refrection) は重要ですし、クラスルームイングリッシュの発音、特にプロソディは練習が必要です(先ほど不要と書きましたが、例えば blackbaord はイントネーションによって複合語「黒板」と名詞句「黒い板」と、意味が変わってきます)。
「実際のコミュニケーションの場面」を適切に再現するためには、教師自身が授業に必要な英語学の要素を学ぶことも大切だと思っています。
岩井千秋 (2019). 「高等学校指導要領に謳われた「英語の授業は英語で」の結果と影響,そして課題」『JACET関西紀要』(21), 1–22.
MEXT (2009). 高等学校学習指導要領,第3章3(エ)
MEXT (2018). 高等学校学習指導要領,第3款1(6)
MEXT (2017). 中学校学習指導要領,3(1)エ
向山洋一 (1985). 『授業の腕をあげる法則』明治図書出版.